突然トルコ料理に凝っている。といっても、何かにインスパイアされたというわけではなく、たまたま友人に愚かな約束をしてしまったからに過ぎない。葉山の友人宅で企画中のホームパーティで「トルコ料理を披露する」と思わず宣言してしまったのだ。誘導尋問的なシチュエーションの中で飛び出した失言なのだが、言ってしまった以上、もう後の祭りである。

でも、これには長い長い伏線がある。

随分昔になるけど、僕はある時期トルコに住みたいと真剣に想っていたことがある。ちょうど仕事の関係で何度もトルコに足を運ぶことがあり、この国とその文化に大いに感化されてしまった。東洋と西洋がマージする接合点は、当時の僕の心を揺さぶるバイブレーションに満ちていた。

音楽、思想、宗教、人々。すべてが魅力的だった。そして何よりも料理である。ガラタ橋の脇で食い散らかすサバのサンドイッチから、ペラパラスで味わう至極のドルマまで、そのめくるめく美食のメリーゴーランドに、僕の味覚中枢は完全にノックアウトされたのだった。

僕の心の師であるG.I.G.の影響もあって、その後スーフィーにのめり込んだりもした。とにかくトルコはいつも僕の中でフーガの通奏低音のように共鳴し続けている存在なのだ。ボスポラス海峡に面したカフェで夕暮れ時にイエニラクのグラスを口に運ぶまったく非生産的な瞬間こそが、僕にとってはエピファニーが訪れる特異点なんだと、いまでもマジで信じている。

で、現実に戻ると2ヵ月後のパーティまでにトルコ料理をマスターしなければならない。とりあえず手始めにと、大好物のアダナケバブを作ってみることにした。イズミールで食べたあり得ないくらいに美味しいアダナケバブの味を記憶の奥底からたぐり寄せながら、ネットで見つけたレシピをもとにキッチンに向かう。

で、出来上がったモノを食してみたらどうってことはない。美味いし、作るのも案外簡単なのだ。牛肉を使ったのだが、本来であれば羊肉を使わなければ本物の味にはならないわけで、最初から「インチキ」バージョンである(本場でも牛肉は使うが、ここはあくまでオリジナリティにこだわるなら、という話)。でも、美味しいからいいじゃないか。ケバブはそもそも元祖男の料理だから、調理の基本は豪放磊落、シンプル・イズ・ベストである。

次にキュウリのサラダ「ジャジュク」を作ってみた。これも簡単すぎる。ヨーグルトに塩、コショウ、にんにく、オリーブアイル、ディルを入れて、スライスしたキュウリにあえる。レモン少々。以上。

アダナケバブにこのジャジュクをソースがわりに添えて食してみる。これはヤバイ。

さて、トルコ料理に詳しい方の目から見れば、僕のアプローチは「とりあえず難しいものは後回しで」という方式であることは一目瞭然である。トルコ料理の奥は深い。まあ、簡単なものからやってみよう、ということである。モチベーション維持には、これが一番だからね。

次は何に挑戦しようか。

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